彼女は、暑苦しさに耐えかねて目を覚ました。
毛布を跳ね除けて身を起こし、首筋を伝う汗を拭う。
(暑い……)
カーテン越しに見える太陽はすでに高く、随分と寝過ごしてしまったと彼女は気づく。季節は春に差し掛かったばかりの頃だが、日差しはまるで夏のようだ。
暑さの原因はこの季節外れの日差しだけではなかった。
ベッドにはもう一人、長髪の男が寝ていた。彼女の腰に腕を回し、抱えるような姿勢で横たわり、毛布の端からコウモリのような翼が覗いている。
「ロデュウ?」
呼びかけてみても反応はない。彼女のように汗をかくこともなく、ぐっすりと寝ている。魔物にとってはこの程度の暑さなど、なんでもないようだ。
チータは彼を起こさないように慎重にベッドを降りた。部屋を出て、1階へ続く階段を下っていく。
シャワーで一刻も早く、この肌に張り付く不快な汗を流してしまいたかった。
*
浴室でシャワーを浴びていたチータは、突然扉を開けられ仰天する。
「なっ……!?」
扉を開けた張本人――ロデュウは、彼女が咄嗟に胸を隠し背を向けたのを見て笑った。
「んだよ、今更だろ」
「突然開けられたら、驚くに決まってるでしょ」
笑われたことにムッとしながら彼女はシャワーを止める。
「で、なに?」
「俺も入んだよ」
「……え?」
戸惑う彼女に構わず、彼はバサバサと衣類を脱いで浴室の外に放り投げ、彼女を押しのけてシャワーのハンドルを捻った。
チータは彼の身勝手な振る舞いに僅かに眉を顰めるが、彼の性格上、今更咎めても仕方がないと重々承知していたので、何も言わずに場所を譲った。
シャワーを盗られてしまったので、彼女は石鹸を手にとって泡を立て、体を洗い始めた。なんとなく、横目で彼の後ろ姿を見る。流水にさらされた彼の黒髪は、彼の手によって滑らかに形を変える一枚の艷やかな布のようで、彼女はそれを綺麗だと思った。
しばらくしてロデュウはシャワーを止め、水を含んだ長髪を手で大きく払った。
その飛沫が、チータの顔に思い切り降りかかる。
「……ッ!」
反射的に目をつぶり顔を拭うが、今度は手に付いた石鹸の泡が額に移り、瞼を開けられない。なんとかしようと手や腕で目の周りをもだもだと擦り続けていると、急に肩を抱かれ、温水が降りかかる場所へ引き寄せられた。
チータは手に触れる温水で顔の泡を洗い流し、滴る水を拭って目を開けると、ロデュウが呆れたような顔で彼女を覗き込んでいた。
「なにやってんだよ」
「……一緒に入るならもう少し気を使ってくれないかしら?」
「……?」
彼女は「誰のせいだと思っている」という苛立ちを露わにするが、彼はどういう意味かわかっていないようだった。面倒くさくて、チータは説明する気も、これ以上怒る気にもならなかった。ただ、彼女の体を見下ろす彼の視線に妙に熱っぽいものを感じ、肩を抱いている手に力が入るのを感じて訝しがる。
「なに?」
疑問を投げかけても、ロデュウは何も言わない。
彼は、チータの濡れた肩に触れて、改めてその柔らかさに興味を惹かれていた。彼女の肩から二の腕、肘先から手首にかけて形をなぞるように手を滑らせて、その後、彼女の腹部に触れた。そこから腰、脇腹とを撫で上げて、その感触を確かめていく。
爪を立てれば、簡単に破けて血が滲み出してしまいそうな彼女の柔らかい肌。
触れるほどに昨夜の行為が思い出され、体の芯から熱い情動がこみ上げてくる。
「ロデュウ?」
彼の手つきが淫猥なものを帯び始めているのを感じたチータは、彼の手を抑えて制止する。が、彼はそれに構わず彼女を背後から抱き寄せて顎を掴みあげ、身を屈めて口づけをした。
「んっ……!」
何度も角度を変えて彼女の唇を食み、舌を絡ませる。唾液が混ざり合い、舌が絡み合う淫靡な水音を立てながら、チータの水に濡れた体により強く手を這わせて、豊満な胸を下から押し上げる。
「はぁっ……あっ……」
激しいキスの合間に漏れる彼女の吐息の甘い響きに、下肢に熱が集まっていく。彼はもっと彼女の反応を引き出そうと、彼女の首筋に口づけを落とし、ゆっくりと舌の先を這わせた。
「んぁっ……!」
彼の狙い通りに、彼女は抑え気味に声を漏らす。チータが狙い通りに乱れる姿が、彼をより貪欲にする。もっと、という自分の欲望に従い、彼は彼女の首を傾けて耳の裏まで舐め上げた。そうしながら、彼女が逃げないように片腕で捕まえたまま、彼女の体の全身を愛撫する。
「ちょっ……と、待っ……ロデュウ!」
次々に与えられる刺激に体を震えさせながらも、彼女は彼の腕の中で身を捩り、密着した体を離そうとする。
「昨晩も、したでしょう」
「……だからなんだよ」
彼はその抵抗をものともせず、腕の中の彼女へ、首を擡げて耳元で囁いた。
「お前も、もうその気だろ」
言いながら、彼女の脚の間に指を這わせ、その根本に触れた。そこは水ではない、とろりとしたもので湿っていた。
「………」
無言の彼女は横目でじとりと彼を見つめる。乱れた呼吸が収まった後、ほぅ、と熱のこもったため息を吐いた。そして、彼に向けて顔を傾けて、瞳を閉じた。彼はそれに応え、彼女の唇に自分の唇を重ねた。
お互いの唇をついばみ合うようなキスをしながら、ロデュウはチータをより強く抱きしめる。彼女の胸を下から鷲掴んで揉みしだき、手の内で自在に形を変えるその柔らかさを堪能する。
彼の愛撫を受け入れながら、今度はチータも彼の体へ触れる。彼の濡れた長髪を手ぐしで撫で、首筋に指先に這わせる。指先は首から肩に、肩から腕へと淡い感触を残しながら流れていく。彼女の指が、彼のごつごつとした手の甲まで達したとき、彼は手のひらを翻して彼女の手首を掴み、それを既に固く昂って上を向いている自らのものへ導いた。チータはされるがままに、手に触れた茎の先端を撫でた。そしてそれを、下から上へと擦り上げる。
彼女の手によって与えられた刺激によって、ロデュウの呼吸も徐々に乱れていく。彼女の手が上下するうち、先端から先走りが漏れ出し、ぬるぬると滑りが良くなっていく。彼は、下肢の疼きが全身に広がる感覚に酔いしれながら、彼女の胸の先端を指先で弾き、つまんで刺激する。
「んっ……んぁっ……んんっ……」
胸先の少し固くなった芽が弾かれる度に発せられるチータの甘い声に誘われ、ロデュウは衝動のままに、彼女の両肩を掴んで振り向かせ、彼女の背を浴室の壁に押し付ける。 その場に腰を落とし、彼女の胸を両手で掴み上げ、その白い胸の先端を長い舌で舐め上げた。
「あぁっ!」
チータは大きく嬌声を上げ、与えられる快楽に耐えるため、ロデュウの肩を両手で掴む。
「んぁっ……あっ……あっ……」
敏感になっていた胸先を食まれ、舐められる官能に翻弄され、全身を震わせる。腰の奥がじんじんと疼き、もう秘部は露で溢れ、雫が太ももを伝っている。
愛撫に悶え、縋り付いてくる彼女の姿に、彼は我慢の限界だった。立ち上がり、彼女の背を壁に押し付けたまま、彼女の太ももに腕を回し、両腕で抱え上げた。そして、痛くなるほど昂っている屹立を、彼女の秘部に押し当て、少しずつ押し進めていく。
「あっ……んんっ」
ゆっくりと奥まで受け入れた彼女は、内部からこみ上げる快感に身悶えする。背中に浴室の壁の冷たい感触を感じながら、彼の首に縋り付く。
「動くぞ……」
彼はしっかりと彼女の腰を固定したまま、抽送を開始した。
「あぁ!あっ、あっ、あぁっ……!」
最奥を突く度に、彼女が声を上げる。ロデュウは、どこもかしこも柔らかい彼女の体を抱いて、悦楽に酔いしれた。秘部が擦れ合う度に、快感がせり上がってくる。
「あっ、あんっ、あっ、あぁっ……ロ、デュウ!」
嬌声の合間に名前を呼ばれ、興奮が一層高まる。呼吸が荒くなり、より快楽を貪り、与えようとして彼女の首筋に牙を立てて甘噛するように食んだ。チータはその刺激に体を震わせ、差し出すように首筋を彼に晒す。ロデュウは目の前の上気した滑らかな肌に舌を這わせた後、場所を変えながら首筋を甘噛していく。
「はぁっ、あぁ……!」
激しい交わりに、二人の体温が上がっていく。彼女が恍惚とした声を上げる度に、ロデュウはこの体勢では顔が見えないことが残念だなと思った。彼女はきっと、昨晩の夜の暗がりの中で見たような、快楽に溶けたような表情をしているはずだが、この姿勢だとそれを間近で見ることは敵わない。
その時ふと、彼の視線が彼女の背後の壁に向かい、彼の動きが緩やかに止まった。
彼は中のものをゆっくりと引き抜いて、チータを浴室の床に下ろした。
タイルの床に自分の足で立った彼女は、先程までの余韻の為に足元がおぼつかない様子で、彼の胸板にもたれ掛かり、潜熱を帯びた瞳で不思議そうにロデュウを見上げる。
「どうしたの……?」
「ちょっと、壁に手ついてみろよ」
「え……?」
「いいからやれって」
チータは言われるままに彼に背を向け、壁に両手をついて、彼の方を少し振り返る。
「もう少しこっちだな」
ロデュウは彼女に覆いかぶさるように身をかがめて、彼女の腰を掴み、右に寄せる。そうすると、彼女の目の前に鏡が来る形となり、その鏡面には二人の姿が写り込んでいる。
「え、ちょっと……」
戸惑う彼女をよそに、彼は彼女の腰を両手で掴み、肩甲骨のくぼみに舌先をつけ、うなじまでを舐めあげて愛撫した。
「はぁっ」
熱の籠もった体を刺激され、彼女は思わず肩を竦めて身を震わせる。その間に、濡れそぼっていた陰唇に固いものが押し付けられて、なんの抵抗もなくずるりと侵入した。
「んぁあっ!」
腹の奥まで挿入されたそれは、すぐに一定の律動で動き始めた。彼女は、既に刺激され敏感になっていた腟内に再び与えられた快感に、体を仰け反らせる。
「はぁっ、あぁっ、あっ、ぁんっ……」
腰の奥から、痺れが背中を伝って全身に広がっていく。腰が抜けそうな快楽に、彼女は目の前の鏡に額を付けてもたれ掛かる。彼女の吐息の掛かった鏡面は、その熱気で白く曇っていく。
「おい」
突き上げていた動きを緩め、ロデュウが片手でチータの腕を掴んで後ろに引き、彼女の身を起こして鏡から遠ざける。
「お前も、よく見ろよ……いい顔してるぜ」
言われるまでもなく、チータの目に鏡に映る自らの痴態が晒される。
乱れた前髪に、切なげに眉を寄せ悦楽に蕩けて半開きになった碧い片目、普段は陶器のように白い頬は上気して赤くなっている。後ろから穿たれる度に、半端に開いた唇から淫靡な喘きが漏れ出していた。
「ば……馬鹿っ……!」
彼女はたどたどしい口調で、鏡越しにロデュウを睨みつける。彼は呼吸を乱しながらも、そんな彼女を笑う。
「なんだよ、満更でも……っ、ねぇんだろ?」
彼が云うように、彼女の秘所は以前より強く中のものを締め付けていた。こんなことをされてひどく腹立たしい筈なのに、羞恥心で最奥が疼き、快感が高まる感覚に彼女は動揺し、鏡から目をそらす。体と心の反応がちぐはぐで、わけがわからくなりそうだった。
「そんな、ことっ……ない……!」
「……強情だな」
彼は彼女の腕を掴んでいた手を離し、彼女の背に覆いかぶさって、その腕で彼女の上半身を強く抱きしめ、腰の揺れを激しくする。
「はあぁっ!あぁっ、あっ、あっ」
それに呼応して、チータの嬌声が大きくなる。淫猥な音が鳴り響くバスルームで、彼女は徐々に腰の奥から甘い痺れが背中を伝って、登ってくるような感覚を覚えた。
「あっ、あぁっ、あっ……ロデュウっ……!」
その感覚が限界まできたとき、全身を快感の電流が走り、彼女の背にじわりと汗が滲み出す。全身がびくびくと震え、秘部が中のものを一際締め付けた。白い、恍惚とした快感が彼女の身を包んでいく。鏡越しに見える彼女のその姿に、ロデュウの征服欲が満たされていく。
「うっ、俺も……出すぞ」
そして、激しく腰を打ち付ける動きを続け、自らの中心を昂らせていく。
「あぁっ……チー、タっ……!」
「んんっ……!」
動きを止め、精を吐き出す直前に茎を膣内から引き抜いた。先端から白い液体が迸り、タイルの上に落ちる。達した余韻に浸りながら、彼の彼女を抱きしめる腕に力が入る。彼の腕の中で、チータはぐったりとして立っているものやっとといった状態で、彼が手を離せばその場に崩れ落ちそうな程、虚脱していた。
芯を失ったかのようにふらふらとして頼りない彼女を抱く感触に、彼はどうしようもなく彼女を求めるような、手放したくない気持ちがこみ上げて、胸が苦しくなる。その感情に身を任せて、彼女の体を撫でたり、うなじに唇を押し当てたりしていると、「離して」と、か細い彼女の声がした。
「休ませて……」
*
チータはずっと無言のまま軽くシャワーを浴びた後、バスタブの蛇口を捻って湯を溜め始めた。そして、溜まるのを待たずにすぐに浴槽に入り、粗雑な手付きでカーテンを閉め切ってしまった。
彼女の素っ気なさを訝しんだロデュウが、カーテンの端に手をかけると「来ないで」と冷たい声で牽制された。
「なんだよ、怒ってんのか?」
「…………」
「……鏡のやつか?そんなに嫌だったのかよ」
彼女は一向に無言のままで、カーテンの向こうからは剣呑な雰囲気が漂っている。鏡を使って辱められたことが、よほど許し難かったようだ。
ロデュウは何か弁解しようと考えを巡らせる。最初は、チータの顔が見たかっただけだ。あの辱めは、途中でなんとなく思いついたもので、それ自体が目的ではなかった。が、それを伝えるのは気恥ずかしくてとても言えず、伝えたところで彼女の機嫌が治るとも思えなかった。
「あー……悪かったって」
どうすればいいのかわからず、とりあえずといった口調でロデュウが謝罪の言葉を口にすると、シャッと勢いよくカーテンの端が開かれた。
「貴方、謝る気あるの?」
少し開けた隙間から顔をのぞかせたチータは、眉をひそめてロデュウを睨みつける。
「だから、悪かったって言ってるだろ」
投げやりな彼の言葉に、彼女は呆れて溜息を吐いた。
「貴方って本当に勝手だわ」
「お前が嫌がるなら、もうしねぇよ」
「本当かしら……」
「本当だって、信じろよ」
言いながら、彼は浴室を仕切っていたカーテンを開けて、バスタブに脚を踏み入れる。彼女が端に寄って場所を開けると、そのまま湯に浸かり、彼女を腕の中に引き入れて、背後から抱きしめた。湯が勢いよく溢れ出し、カーテンの裾を濡らしながら、タイルの床に流れ落ちていく。
「次は優しくするからよ、機嫌直せよ」
全く悪びれないロデュウに、チータは諦めたように再び溜息を吐いた。そして、彼の肩に頭を傾けて身を預けながら、ぽつりと一言呟いた。
「馬鹿」
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