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独白

 俺が手紙を書くことになるなんて、今までの人生で思ってもみなかったことだ。
 俺がこんなにらしく無いことをする羽目になったのは、お前のせいだぜ、リオウ。お前とお前の世界が勝手すぎるせいだ。

 思い返せばお前は出会った頃からずっと勝手だった。突然俺の前に現れて、王を決める戦いに参加しろだとか、ファウードを復活させるために他の魔物を集めろだとか、テメェの要求ばかりを喚くガキだった。本来ならそんなの知ったこっちゃ無いが、魔物との戦いでお前の術をぶっ放すのは爽快だし、ファウードの馬鹿デカさも気に入ったもんだから、ガキのお守りをする気になったんだ。お前の力で俺も散々勝手にやらせてもらったし、それなりに楽しい日々だったよ。

 だがお前の勝手は、お前自身の勝手じゃなかったよな。ずっとお前の後ろにいる、誰かのもんだったんだ。俺はそれに鼻から気づいていて、他人の勝手を背負いこんでいつも小難しい顔をしているお前が、いつか張り詰めた弦みたくぷっつり切れちまうもんだと、そう思っていた。

 俺は、お前がそうなるのを待っていたんだぜ。その時を楽しみにすらしていたと思う。お前の心がポッキリ折れて、なにもかもくだらねぇと知った時に「やっとわかったか!」とお前の肩を叩いて笑いたかった。
 そうしてお前とあの巨人に乗って、このくだらなさで満ちあふれた世界を歩き回って、この世を楽しみ尽くすことが出来たなら最高だったのによ。まぁ、叶わなかったことを悔やむなんてことは、人生の無駄だからほどほどにするか。

 長々と語ってきたが、俺がお前に一番言いたいことは、他人のために命を捨てることほど、くだらねぇことはないってことだ。人生は楽しんでこそっていうじゃねぇか。俺はこの考え方、結構好きだぜ。なんたってこの世はクソで、生まれた意味なんてものが全て後付けの御託だとするなら、あとはどれだけ人生を楽しめるかだろ。
 他人の期待に応えれば報われるなんて、そんなもんは吹いたら消える幻想だ。そんな幻想に、神経すり減らして眉間に皺寄せんのは、馬鹿のすることだ。
 基本的に、期待は絶望の入り口だ。俺も、ほんのちょっとは期待を持って、それで痛い目をみたりもするが、期待を信じきることはない。お前はそこんところをわかっていない。今回の件で痛いほど理解したかもな、これに懲りてもう期待に身を寄せすぎるなよ。

 説教くさくなっちまったな、柄でもない。似合わねぇことをするからだな。書いてみてわかったことなんだが、手紙ってのは一方的に感情をぶつけるための、エゴイスティックな代物だな。それなりに気に入ったぜ。癇癪を起こしたお前に、遮られることなく好き勝手言えるんだからな。文句があるなら直接言いに来な。お前からの手紙なんて、もう読んでやらねぇことにしたからよ。

 だからよ、リオウ。

 ここで、バニキスは手を止めた。思いつくままに言葉を書きつけていた紙面を見つめた後、彼は手荒くそれを掴み、ぐしゃぐしゃと手のひらの内で握りつぶしてしまった。自身のやっていることが急に馬鹿馬鹿しく思えた。丸めた紙を屑かごに向けて投げ捨て、椅子の背もたれに身を預ける。
 机の上には、あの魔物からの手紙と、それに同封された写真が伏せて置いてある。あの魔物は、自分といた頃では想像もつかないような顔をして写真に収まっていた。
 バニキスは、似合わぬことに手を出してしまった自身を鼻で笑った。自己の一貫性について悩むような神経の持ち主ではないが、あの手紙の内容に心を揺らされてしまったことに、若干の苛立ちを感じていた。
(期待は絶望の入り口か。我ながら良い言葉を思いついたもんだな)
 天井を見上げ、光を反射しない瞳で自嘲気味に笑い、男は虚空に向かって呟いた。

「期待しないで待ってるぜ、リオウ」

Published in全年齢

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